肥満を伴う難治性重症喘息の診療のポイントを解説!

【はじめに】

気管支喘息の治療コントロールに難渋する代表的な症例に、肥満を合併した症例が挙げられます。

肥満と喘息がある方(以下、肥満合併喘息)は喘息のコントロールに難渋するケースがよくあり、本当に困ります。

私と同様に、肥満合併喘息の患者さんの診療で困っている先生方は大変多いと思います。

重症難治性喘息の中でも、いまだ肥満合併喘息は特に課題となっています。

様々な要因が複雑に絡み合うため、コントロールできないケースが本当に多く、どうすることもできない症例も多いからです。

この記事では、臨床医が知っておきたい肥満合併喘息の特徴について最近の知見を簡潔にまとめます。そして、実際の診療で意識したいこと、ポイントをまとめることにより、肥満合併喘息のコントロールを少しでも良く管理できるようにすることを目標にします。

・肥満合併喘息の特徴、分かっていること

・なぜ肥満があると喘息のコントロールが難しくなるのか?

・肥満を伴う難治性喘息の患者を担当した時にはどのように診療をすればいいのか?

これらの疑問に答え、実際の臨床に活かせるように記事にまとめます。

明日からの喘息診療に役立てると思いますので、ぜひご参考にください!

肥満合併喘息で最近分かってきたこと

・肥満は喘息の危険因子である

・肥満は喘息の転帰に悪影響を及ぼす

・成人発症喘息の病因に関係がある

・肥満の脂肪組織のインバランスが、全身性にも、気道性にも炎症を誘発する

・肥満は、アレルギー性または好酸球性炎症の喘息バイオマーカー(血清総IgE、FeNO、好酸球数)に影響を与える可能性がある

・高糖質、高脂肪、低繊維の食事摂取などの肥満に関連する食事の変化は、マウスモデルでは気道の炎症の増加と関連が示唆されている

・BMIの上昇は、喘息コントロール不良との因果関係がある

・外科的な減量介入により喘息コントロールと生活の質(QOL)の改善が期待できる

・T2 低または非 T2 の重度の肥満合併喘息に対しては、治療方法が不足

(T2低、非T2のエンドタイプの潜在的なマーカーや、肥満合併喘息に対する特異的なバイオマーカーの検索も必要)

・クラスターコホート研究では女性優位の肥満、重度の喘息の表現型が示されており、特に閉経前後の女性に影響を及ぼしている。

肥満合併喘息の診療は難易度が高く、難しい

コントロール不良の喘息患者の中でも、肥満合併喘息の症例の診療はかなり難しいです。

私の今までの経験でも、喘息の重積発作でICU管理をした症例は全て肥満合併症例でした。

また時々、肥満の方が喘息症状を悪化させて救急外来や初診内科外来を受診されますが、コントロールには難渋するケースがほとんどです。

私の今までの診療経験も含めて、肥満合併喘息の診療が難しい理由として以下のような理由が挙げられます。

・ステロイドの反応性が低くなっている→症状悪化時に治療効果が出にくい

・生活背景が複雑な方が多い

・生活のストレス、精神面の弱さ→喫煙、食事摂取量増加、偏った不健康な食生活

・服薬アドヒアランスが悪い方が多い

・今までしっかりとした診療を受けずに長期間経過し、治らない状態に至っている

・肥満による呼吸機能の低下や、糖尿病、心疾患などの合併症の問題

・肥満と喘息コントロールの悪化→活動性の低下、体調の悪化→更に体重増加を来す→

喘息発作時の経口コルチコステロイド(OCS)の使用が増えると、更に体重増加。次第に膝、腰などに整形外科的な問題が加わってくる。

以上のような要因が複雑に絡みながら、負のスパイラルに陥ってしまっている方が多いです。

そのため、私たち総合病院の勤務医が介入しようにも限界があるのが現実です。

また、このような方々が喘息発作で入院すると、高度発作~重積発作に至ってしまうため、治療がとても大変です。高度な全身管理が求められます。治療が奏功せず救命できないケースもあります。

このように、肥満合併喘息の管理は大変難しく、それ故に、内科医としての力量を問われていると考えており、何とかして改善につなげていきたいと思っています。

臨床医が知っておきたい肥満合併喘息の特徴

ここでは、肥満合併喘息について知っておきたい特徴について、簡潔にまとめます。

1)ステロイド反応性が低い

肥満ではグルココルチコイド受容体の発現低下、好中球性炎症の関与が示唆されています

2)薬物使用の増加

3)入院期間の延長

4)生活の質の低下

5)肥満が疾患の重症度の増加に関連

6)呼吸機能の低下

・BMI増加は気流制限・閉鎖の増加と関連

・機能的残気量、一回換気量の低下→気道抵抗増加、気管支狭小化、気道過敏性の亢進

7)肥満に関連する合併症

OSAS、胃食道逆流症(GERD)、うつ病、糖尿病、心疾患などの合併の問題

脂肪組織から産生されるアディポカインが慢性炎症に関与

なぜ肥満合併喘息は難治性なのでしょうか。これには、肥満組織から産生される様々なサイトカインが影響していると考えられています。ここでは代表例を列挙します。

・レプチンの関与(炎症の誘導、気道過敏性亢進)

・アディポネクチン分泌の減少

・TNF-α、IL-6などの上昇が気道炎症に関与

・IL-17Aの関与の報告

肥満合併喘息の治療、管理のポイント

難治性重症喘息の診療においては、①治療薬のアドヒアランスの確認、②併存症や合併症の確認、③診断自体の確認、④最大限の標準的な喘息治療薬の投与が行われているかなどを確認します。

現在可能な治療薬として、吸入ステロイド(ICS)、長時間作用性ベータ刺激薬(LABA)、長時間作用型ムスカリン拮抗薬(LAMA)、ロイコトリエン受容体拮抗薬、経口テオフィリン、OCS、生物学的製剤があります。

しかしながら、肥満合併喘息では、これらを最大限に行ってもコントロール不良な症例に時々、遭遇します。

ここでは「もう次に打つ手がない!」「もう治療に限界だな・・・」と感じた時に検討可能な選択肢を再考私なりに提示してみます。

1)体重の減量を目指す

コントロールに難渋する肥満合併喘息では、上記で述べてきた難治性喘息の病態の原因になる肥満症自体に対するアプローチにより、病態の改善が期待できる可能性があり、減量をトライしてみましょう!

最近の研究では、外科的な肥満手術による良い効果も示されています。Roux-en-Y胃バイパス術やスリーブ状胃切除術のような肥満外科手術により、下記のようなことと関連していると言われています。

・全身および気道の炎症誘発性マーカーの減少

・肺機能の改善、喘息のコントロール、QOLの改善(ACT、ACS、AQLQを含む)

・治療負担の軽減

ただし、現実的な課題としては、このような肥満手術の適応となる症例がほとんどいないということです。なので、肥満合併喘息に対する治療選択肢は非常に限られてきます。

上述した外科的手術以外での体重減量による喘息改善の効果については、はっきりしていないようです。ですが、医師が診断した中等度から重度の喘息の肥満女性51人を対象に、食事療法と運動プログラムを3ヶ月間利用した非盲検前向き研究では、運動による肺容積と気流の改善に加えて、体重の>5%の減少が喘息バイオマーカー(FeNO)、全身バイオマーカー(IL-2、IL-4の減少、 IL-10の増加)、患者のACQ、AQLQの結果にいい効果がみられたとの報告があります。

肥満合併喘息の方では、体重減量を行うことで病態の改善が期待できると思います!(少なくとも減量をしないよりは、するべきです!)

最近では、肥満症に対するウゴービなどの治療選択肢も出てきており、症例に合わせ検討していきましょう。

2)糖尿病合併例では糖尿病治療薬による体重減少を期待できないか

肥満症の方は、糖尿病を合併する方が多いです。

体重減少の効果も期待できる薬剤として、メトホルミンやグルカゴン様ペプチド1アゴニスト/受容体アゴニストなどがあり、日本でも数種類の薬剤が使えます。(メトホルミンとGLP-1アゴニストは、抗炎症作用や免疫調節作用、またはインスリン抵抗性への影響により、喘息の転帰を改善する可能性があることが示唆された研究もあり)。

既に全ての治療を行い尽くした状況では、肥満に合併した糖尿病のコントロール時に、体重減少効果も狙って糖尿病治療薬を選択してもいいかもしれません。

糖尿病内分泌内科の先生とも相談してみましょう。

3)食事が喘息に与える影響については関心が集まっている分野

食事内容が喘息の悪化に関与していることも報告されてきています。

例えば、過剰な食事性脂肪酸と炭水化物摂取や、低繊維の食事は、気道の炎症の増加と関連が示唆されています。

臨床医としては、健康的な食事摂取、栄養指導をすることにより、肥満や糖尿病などの合併症のコントロールから、結果的に喘息にもいい影響がでる可能性に期待したいですね。

管理栄養士による介入(栄養指導)、肥満治療食を相談していきましょう。

4)なぜ喘息コントロールが悪いのかの原因を確認しよう

上述したように、多くの原因が絡み合っているケースがほとんどです。何か介入できることがないかをチェックしましょう。症例に応じて対応をしていく必要があります。

必要に応じて、禁煙外来、肥満外来、栄養指導、臨床心理士、精神科、メディカルソーシャルワーカーの介入など、介入できる余地がないか検討していきましょう。

まとめ

代表的な難治性重症喘息の病態の1つの肥満合併喘息について掘り下げて解説してみました。

肥満合併喘息に特異的な治療法はないですが、個々の患者さんに応じて、介入できるアプローチを考えていくことが臨床医には重要です!

この記事が、肥満合併喘息の診療に難渋している先生方の参考になり、患者さんの診療のヒントに頂ければ幸いです!

参考文献

⑴Varun Sharma,et al.Obesity, Inflammation, and Severe Asthma: an Update.

Curr Allergy Asthma Rep. 2021 Dec 18;21(12):46.

⑵「難治性喘息診断と治療の手引き」

注意

※本記事はあくまでも各先生方の診療の参考として活用ください。実際の診療では、個々の症例や保険適応について、ご検討、ご確認をよろしくお願いします。

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