喘息とCOPDに対する吸入薬の使い方、選び方を専門医が解説!

【はじめに】

気管支喘息とCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の治療において、吸入薬は重要な役割を担います。

しかし、多くのデバイスが存在するため、どのデバイスを選択すべきか迷います。おそらく吸入治療の専門家以外に、患者の状態にあわせて治療薬を処方できる先生はほとんどいないのではと思います(私自身は、そこまでこだわって処方はできていませんでした・・・)。

私と同じように悩んだり、疑問に感じている先生方も多いのではないでしょうか。

本解説では、臨床医の先生向けに、喘息とCOPDに対する吸入薬の選び方について、基本的な知識から、実臨床で知っておくとよい知識をまとめて解説します!

この記事を読むと、普段なんとなく処方をしている吸入薬について理解が深まり、先生方の診療のレベルアップができるようになります。結果的に患者さんにもいい結果が出てきます。普段の先生方の診療が楽しくなっていくだろうと思います。

普段から呼吸器専門医として症状に困る患者さんの診療をしている経験も元に記事にしますので、先生方の日常診療のお役に立てれば幸いです!

吸入薬治療で大事なこと

「目の前の患者さんにとって、最適な吸入薬を処方し適切に使っていくこと」

だと思います。そのためには多くの吸入薬について、ある程度の知識をもっている必要があります。

吸入薬を処方する際の問題点

課題は色々あり列挙してみます。

  1. 吸入薬の種類、デバイスが多すぎる
  2. デバイス毎に操作手順が異なるため、医師が把握しきれない
  3. 患者さんの背景、状態、疾患が様々であり、個々のケースに合わせる必要がある
  4. 吸入薬自体に合う合わないがある
  5. 処方医が実際に使ったことがなく実感がわきにくい
  6. 忙しい外来で一人一人の患者さんが適切に使用できているかまで確認する余裕がない

吸入薬デバイスの種類と特徴を理解しよう

医師が実際に処方する上で、知っておきたい吸入薬デバイスの種類とその特徴についてまとめます。

赤下線の部分だけでもチェックしておくと有益です!!

まず吸入薬デバイスは、大きく分けて以下の3種類に分類されます。

①加圧噴霧式定量吸入器(pressurized meterdose inhaker; pMDI)

  1. 特徴: 息を吸い込むタイミングに合わせて、薬剤を噴霧し吸い込むタイプ。
  2. メリット: 呼吸機能が低下している症例でも吸入しやすい。押して吸うだけで操作がシンプル。
  3. デメリット: 噴霧と吸気のタイミングを合わせる(同調)必要がある。そのため高齢者、小児、寝たきり患者には難しい場合あり(=同調困難例では吸入補助器具のスペーサーを積極的に使用することが薦められている)。他には、口の中に薬剤が残りやすいこと、使用する製剤によりアルコール臭があること、エタノールなどの刺激で咳が誘発されることがある。
  4. 代表的な商品: フルティフォーム、ビレーズトリなど

②ドライパウダー吸入器(dry powder inhaler; DPI)

  1. 特徴: 粉末状の薬剤を吸い込むタイプ。
  2. メリット: 噴霧と吸気のタイミングを合わせる必要がない(同調する必要がない)。
  3. デメリット: 吸入力がかなり落ちている患者には不向き(そばをすすれる程度あればオッケー)。操作がやや煩雑で理解力に難がある患者には不向き(小児、認知症患者など)。口腔内に薬剤が残りやすい。
  4. 代表的な商品:多数!

③ソフトミスト吸入器(soft mist inhaler; SMI)

  1. 特徴: 噴射ガスを使わずに、ゆっくり噴霧される霧状の薬剤を吸い込むタイプ。
  2. メリット: 噴霧がソフトで、吸い込みやすい、口腔内への薬剤付着が少ない。
  3. デメリット: 前準備が複雑なので、薬剤師がセットすることが望ましい。
  4. 代表的な商品:スピリーバ、スピオルト

吸入薬のデバイスを決めていく実際の流れ

ここからは、実際に処方をしていく際の流れを解説していきます。

気管支喘息やCOPDなどにより症状が悪化し外来を受診される方は、呼吸機能が低下していることもあるため、処方時に吸入できる能力の有無の確認は重要です。

① 患者が勢いよく吸入できるかどうか

・吸入できればDPI製剤で可

・吸入できなければエアータイプのpMDI,SMI製剤を選択

・病状により一時的にできない場合には、ネブライザーの併用も考える

実臨床では、外来診察時には、多くの場合はDPI製剤で可です。

 

② 上記①で吸入できない場合、同調できるか確認する

・同調ができなければスペーサーでの介助を考える(超高齢者、認知症、寝たきり状態など)

・スペーサーでも難しそうな症例では、貼付剤、経口剤も選択肢に

時々あるケースですが、廃用が進んできた高齢者で、スペーサーを用いた吸入治療もできず、やむを得ずLABA貼付剤を処方することはあります。

 

③ デバイス操作ができるかどうか

基本的には上記の①、②を確認し、あとは病名に応じて(気管支喘息なのかCOPDなのか)処方したい薬剤の種類(ICS/LABA、LAMA/LABA、ICS/LABA/LAMAなど)を決め、そこから具体的に商品を選択すればオッケーです。

その際に、デバイス操作に不安があるケースでは、使いやすいデバイスを選ぶようにしましょう。

例えば、ICS/LABAなら、エリプタ製剤は操作がシンプルで使いやすいです。

処方をする際のコツ・ポイントを解説

①できるなら合剤にまとめる

例えばICS/LABA+LAMAや、LAMA/LABA+ICSを処方している方→ICS/LABA/LAMAの合剤に変更し、患者さんの手間を減らし、アドヒアランスの向上を目指しましょう!

②使用するデバイスをなるべく統一しよう!

例えば、エリプタなら、ICS(アニュイティ)、LAMA(エンクラッセ)、ICS/LABA(レルベア)、LAMA/LABA(アノーロ)、ICS/LABA/LAMA(テリルジー)と使用するデバイスが同じにすることができます。再度、患者さんがデバイスの操作を覚えなおさなくてもいいので、嬉しがられますよ。

他には、ブリーズヘラー(ウルティブロ、エナジアなど)も各薬剤が揃っています。

③吸入回数をできれば減らす(1日1回の吸入薬)

例えば、気管支喘息に対しICS/LABAを処方する際に、レルベアなら1日1回です。

④カプセルをセットする器具かどうか。

カプセルを設置して吸入するタイプでは、準備する手間がかかります。毎日のことなので手間は少ないほうがいいですよね。

⑤喘息発作時にMART療法ができるか

シムビコートは発作時に吸入薬を追加することが可能です。メプチンエアーを別途処方せずに済みます。使用方法について理解力がある方、外出する機会が多い方では、相性がいいと思います。

⑥患者の好みや実際に使用した感想に応じて変える

粉を吸うタイプのDPIがいいか、またはエアゾールを吸うタイプのpMDIがいいかで選ぶこともあります。

患者さんが使用してみて、より効果を実感しやすく吸いやすいタイプを選びましょう。

気管支喘息に対する吸入薬

多くの吸入薬がありますが、実際に臨床で頻用する、知っておくべき薬剤は限られます。

外来を受診する気管支喘息の患者さんは、症状が悪いので、処方する薬剤は、ICS/LABA、ICS/LABA/LAMAになってきます。ICS/LABAではシムビコートorレルベア(DPI製剤)か、フルティフォーム(pMDI)から選びます。ICS/LABA/LAMA(テリルジー100、200。200は喘息のみに保険適応です)

選ぶ際のポイントです。

・シムビコート:理解力がある。発作時にMART療法ができる。

・レルベア:デバイスがエリプタなので、1日1回で済み、吸入準備が簡単なので、めんどくさい性格の方や、アドヒアランスを良くしたい場合に重宝する。操作が簡単なので高齢者にも使いやすい。

・フルティフォーム:pMDI製剤であり、吸う力が弱い方にお薦め。

 

私見ですが、高齢者でかなり吸入力が弱った方以外は、正直DPI製剤、pMDI製剤のどちらでもいいです!ひとまず忙しい外来では先生方が処方し慣れている商品を選んでおき、再診時の感想を聞いて変更するかどうかを考えていけばオッケーだと思います。

COPDに対する吸入薬

処方する薬剤は、LAMA/LABA、ICS/LABA/LAMAになってきます。LAMA/LABAではアノーロエリプタ(DPI製剤)orウルティブロブリーズヘラー(DPI製剤)か、スピオルト(SMI)から選びます。(勤務先にはビベスピはなく処方したことがありません)

ICS/LABA/LAMAではテリルジー100エリプタ(喘息とCOPDに適応あり)、ビレーズトリエアロスフィア(pMDI製剤)から選択します。

実臨床では時々LAMAが処方できないケースがありますので、抗コリン薬が使用できるかの確認は必要です。

吸入治療薬を処方した後のフォローも大事!

外来で実際に処方してみて効果はどうだったか、使用して困っていることはないか(手技や副作用の有無など)を確認していきましょう。

吸入薬関連のおすすめのホームページ

・独立行政法人環境再生保全機構の動画が分かりやすいです!リンクを掲載します。

https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/control/inhalers/feature01.html

まとめ

今回は臨床医の先生向けに、喘息とCOPDに対する吸入薬の選び方について、基本的な知識から、実臨床で知っておくとよい知識をまとめて解説しました!

この記事を読んで頂いた先生方の診療のレベルアップにつながれば幸いです!

今回の記事を通し、私自身が大変勉強になりました。今ままで何気なく処方していた吸入薬について、よりよい治療をしていきたいと思います!

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