【医師向け】喘息・COPDの吸入薬の選び方|pMDI・DPI・SMIを呼吸器専門医が解説

この記事の執筆者:呼吸器専門医・総合内科専門医・がん治療認定医として働きながら、2児を育てる勤務医です。自身のキャリアと経験をもとに記事を書いています。同じように悩む先生方の参考になれば幸いです。

気管支喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の診療では、吸入薬が治療の中心になります。

ところが、実際に処方しようとすると、

「この患者さんには、どの吸入薬・デバイスが使いやすいのだろう?」

と迷うことは少なくありません。

私自身、呼吸器内科医として診療を始めた頃は、薬剤の種類には意識が向いていても、患者さんの吸気能力や手指の動き、理解力まで考えてデバイスを選ぶところまでは十分にできていませんでした。

吸入薬にはpMDI、DPI、SMIなど複数のデバイスがあり、それぞれ必要な吸入方法や操作が異なります。

医学的に適切な薬剤を処方しても、患者さんが正しく吸入できなければ十分な治療効果を得られません。

実際、吸入手技の誤りは喘息・COPD患者で高頻度に認められ、治療成績にも影響することが報告されています1,2

この記事では、若手医師や非専門医の先生に向けて、

薬剤を決める

デバイスを決める

正しく使えているか確認する

という実臨床で使いやすい流れに沿って、喘息・COPDの吸入薬選択を整理します。

この記事の結論

吸入薬選びでまず押さえたいのは、次の3点です。

  1. 疾患と病状から必要な薬剤クラスを決める
  2. 患者さんが実際に使えるデバイスを選ぶ
  3. 処方後に吸入手技と治療効果を確認する

「最も新しい薬」ではなく、目の前の患者さんが正しく、無理なく継続して使える吸入薬を選ぶことが重要です。

目次 閉じる

  1. 吸入薬を処方するときに難しいこと
  2. 吸入薬デバイスの3種類を理解しよう
  3. 吸入デバイスを決める実際の流れ
  4. 吸入薬を処方するときの6つのコツ
  5. 気管支喘息では吸入薬をどう選ぶ?
  6. COPDでは吸入薬をどう選ぶ?
  7. 吸入薬は処方した後のフォローが重要
  8. 吸入方法の確認におすすめのサイト
  9. 吸入薬を処方する前のチェックリスト
  10. よくある質問
  11. まとめ|「一番いい吸入薬」より「その患者さんが使える吸入薬」
  12. 参考文献
  13. おすすめの記事

吸入薬を処方するときに難しいこと

吸入薬には、内服薬とは少し違った難しさがあります。

  • 吸入薬・デバイスの種類が非常に多い
  • デバイスごとに操作方法が異なる
  • 必要な吸気流量がデバイスによって異なる
  • 噴霧と吸気の同調が必要な製剤がある
  • 高齢者では認知機能や手指の巧緻性も影響する
  • 患者さん自身の好みや使いやすさにも差がある
  • 忙しい外来では吸入手技まで確認しにくい

つまり、

「どの薬が効くか」だけでなく、「その患者さんがそのデバイスを使えるか」まで考える必要がある。

ここが吸入治療の難しいところです。

吸入薬デバイスの3種類を理解しよう

まず、臨床で押さえておきたいのがpMDI・DPI・SMIの3種類です。

① pMDI|加圧噴霧式定量吸入器

pMDI(pressurized metered-dose inhaler)は、薬剤をエアロゾルとして噴霧するタイプの吸入器です。

代表例として、フルティフォーム、ビレーズトリなどがあります。

メリット

DPIと比較すると、患者自身の強い吸気流量に依存しにくく、吸気力が十分でない患者さんでも選択肢になります。

注意点

噴霧と吸気をタイミングよく合わせる「同調」が必要です。

同調が難しい患者さんでは、製剤に対応したスペーサーを使用することで吸入しやすくなる場合があります。

スペーサーは、口腔・咽頭への薬剤沈着を減らす点でもメリットがあります。

② DPI|ドライパウダー吸入器

DPI(dry powder inhaler)は、粉末状の薬剤を患者自身の吸気によって吸入するタイプです。

エリプタ、タービュヘイラー、ブリーズヘラーなど、さまざまなデバイスがあります。

メリット

噴霧と吸気を同調させる必要がありません。

注意点

薬剤を吸入するために、デバイスごとに必要な吸気流量を確保する必要があります。

重症COPD、急性増悪時、著しく衰弱した高齢者などでは、十分な吸気流量を生み出せない場合があります。

一方で、「肺機能が悪い=DPIが使えない」と単純には判断できません。

FEV1と吸入時の最大吸気流量は必ずしも一致しないため、実際の吸入操作を確認することが重要です。

③ SMI|ソフトミスト吸入器

SMI(soft mist inhaler)は、薬剤を比較的ゆっくりとした霧状のミストとして噴霧するデバイスです。

代表例として、スピリーバ レスピマット、スピオルト レスピマットなどがあります。

DPIほど強い吸気流量に依存しにくい一方、ゆっくり深く吸入する操作や、製品特有の準備が必要です。

初回処方時には、医師・薬剤師・看護師などによる吸入指導を行うと安心です。


吸入デバイスを決める実際の流れ

ここからが実臨床で特に重要です。

私は現在、次の順番で考えるようにしています。

STEP 1|まず必要な薬剤を決める

最初に考えるのは、デバイスではありません。

まず、

喘息なのか?
COPDなのか?

を確認し、疾患のコントロール状態や増悪リスクから必要な薬剤クラスを決めます。

喘息であればICSを含む治療、COPDであればLAMAやLABA/LAMAなどが中心になります。

そのうえで、必要な治療を実現できる製剤の中から患者さんに合ったデバイスを選ぶと整理しやすくなります。

STEP 2|DPIを十分に吸えるか確認する

患者さんが十分な吸気流量を生み出せるのであれば、DPIは有力な選択肢です。

一方、吸気能力が十分でないと考えられる場合には、pMDIやSMIなどを検討します。

STEP 3|噴霧と吸気を同調できるか確認する

pMDIなどを使用する場合には、噴霧と吸気のタイミングを合わせられるかを確認します。

難しい場合には、対応するpMDIでスペーサーを使用する方法があります。

高齢者では年齢だけで判断せず、

  • 認知機能
  • 手指の動き
  • 視力
  • 吸気能力
  • 同調能力

を実際に確認することが大切です。

STEP 4|毎日デバイスを操作できるか確認する

最後に、患者さんがその操作を毎日続けられるかを考えます。

たとえばブリーズヘラーでは、毎回カプセルをセットする必要があります。

一方、エリプタのようにカバーを開けて吸入するタイプは、比較的操作がシンプルです。

「医学的に使える」だけでなく、「半年、1年と無理なく使い続けられるか」を考える。

吸入薬を処方するときの6つのコツ

① 可能なら処方をシンプルにする

複数の吸入薬を使用している患者さんでは、適応があれば配合剤にまとめられる場合があります。

たとえばICS/LABA+LAMAを使用している患者さんでは、疾患や治療ステップによってICS/LABA/LAMA配合剤への変更が可能です。

薬剤数や操作回数を減らすことで、治療負担を減らし、アドヒアランス改善につながる可能性があります。

② 使用するデバイスをできるだけ統一する

複数の吸入薬を使用する場合、可能であれば同じデバイスで揃えるという考え方は実用的です。

患者さんが複数の操作方法を覚える必要がなくなり、吸入エラーを減らせる可能性があります。

これは、私自身も実臨床で意識しているポイントです。

③ 吸入回数を減らせるか考える

患者さんによっては、1日2回よりも1日1回の方が継続しやすいことがあります。

仕事が忙しい患者さん、吸入忘れが多い患者さん、高齢で家族が服薬管理している患者さんなどでは、投与回数の少なさがメリットになります。

ただし、投与回数だけで製剤を選ばず、治療内容・病状・患者希望とのバランスで判断します。

④ カプセル装填が必要か確認する

ブリーズヘラーなどでは、毎回カプセルをセットして吸入します。

慣れれば問題ありませんが、手指の巧緻性が低下している患者さんには負担になることがあります。

毎日の準備が患者さんにとって負担にならないかという視点も重要です。

⑤ MARTが選択できるか確認する

喘息では、ICS/formoterolを維持療法と症状時のリリーバーの両方に使用するMART(maintenance and reliever therapy)が選択肢になる患者さんがいます。

注意:すべてのICS/LABA製剤でMARTができるわけではありません。シムビコートはMARTが可能です。

⑥ 患者さんの好みも大切にする

医師から見ると同じような吸入薬でも、患者さんの感想は違うことがあります。

「粉の感じが苦手」「エアゾールの方が使いやすい」「こちらのデバイスの方が操作しやすい」といった希望もあります。

医学的に複数の選択肢がある場合には、患者さん自身が使いやすいと感じるデバイスを選ぶことも大切です。

気管支喘息では吸入薬をどう選ぶ?

喘息では、ICS(吸入ステロイド)を含む治療が基本です。

GINAでは成人・思春期喘息に対してSABA単独治療を推奨せず、ICSを含む治療が推奨されています。

治療強度は、症状、増悪歴、肺機能、現在の治療、アドヒアランス、吸入手技などを確認して決めます。

したがって、すべての喘息患者にICS/LABAやICS/LABA/LAMAを処方するのではなく、病状に応じて段階的に治療を選択します。

私が実臨床で考えるポイント

操作をできるだけシンプルにしたい
→ 操作工程の少ないデバイスを検討

MARTを検討したい
→ シムビコート

DPIに必要な吸気流量を確保しにくい
→ pMDIやSMIなどを検討し、必要に応じてスペーサーも考慮

特定の商品を一律に第一選択とするのではなく、患者さんが確実に使用できる製剤を選ぶことを優先します。

COPDでは吸入薬をどう選ぶ?

COPDでは、長時間作用性気管支拡張薬が薬物療法の中心になります。

GOLDでは症状と増悪リスクを評価し、患者背景に応じてLAMA、LABA/LAMAなどを選択します。

ここで特に注意したいのがICSです。

ICSは、すべてのCOPD患者に必要なわけではありません。

増悪歴、血中好酸球数、喘息の併存などを踏まえて使用を判断します。

したがってCOPDでは、単純に「LAMA/LABAか3剤配合薬か」を選ぶのではなく、まずその患者さんにICSが必要かを考えることが重要です。

そのうえで、吸気能力、操作性、吸入回数、患者さんの好みなどからデバイスを選択します。

LAMA使用時には、口渇、排尿症状、眼症状などにも注意し、閉塞隅角緑内障や排尿障害などについて確認します。

吸入薬は処方した後のフォローが重要

吸入薬は、処方して終わりではありません。

再診時には、単に「調子はどうですか?」と確認するだけではなく、

「普段どのように吸入していますか?実際にやってみてもらえますか?」

と実際の操作を確認することもおすすめします。

患者さん自身は「できている」と思っていても、吸入手技に誤りがあることは珍しくありません。

吸入エラーは、喘息・COPDのコントロール不良と関連することが報告されています2

再診時に確認したい5項目

  1. 症状・治療効果
  2. 吸入手技
  3. アドヒアランス
  4. 副作用
  5. デバイスへの不満・使いにくさ

特にICS使用患者では、口腔内症状や嗄声なども確認し、必要に応じて吸入後のうがいなどを再指導します。

吸入方法の確認におすすめのサイト

患者さんへの吸入説明では、独立行政法人 環境再生保全機構(ERCA)の吸入動画が非常に分かりやすく、参考になります。

文章だけでなく動画で確認できるため、患者さん自身の復習にも活用できます。

吸入薬を処方する前のチェックリスト

  • □ まず必要な薬剤(成分)を決めたか
  • DPIを十分に吸えるだけの吸気流量があるか確認したか
  • □ pMDIの場合、噴霧と吸気を同調できるか確認したか
  • □ 毎日デバイスを操作できるか(握力・視力・認知機能)を確認したか
  • □ 処方をシンプルにできないか検討したか
  • □ 複数処方する場合、デバイスを統一できないか検討したか
  • □ カプセル装填の要否を確認したか
  • □ MARTが選択できるか検討したか
  • □ 患者さんの好みを聞いたか
  • 処方後のフォロー(吸入手技の確認)の予定を決めたか

よくある質問

Q1. デバイス選択で最初に確認すべきことは何ですか?

DPIを十分に吸えるかどうかです。本文のSTEP2にあたります。ここを外すと、どんな薬剤を選んでも効果が出ません。

Q2. pMDIとDPI、どちらを選ぶべきですか?

患者さんによって答えが変わります。吸気流量が保てるならDPI、同調ができるならpMDI、いずれも難しい場合はSMIやスペーサーの併用を検討します。詳細は本文をご覧ください。

Q3. 複数の吸入薬を処方するときの注意点は?

デバイスをできるだけ統一してください。操作方法が違うと手技が混乱し、アドヒアランスが落ちます。

Q4. 処方したあとは何をすればよいですか?

吸入手技の確認が最も重要です。処方した時点では正しく使えていても、時間が経つと崩れます。本文の「処方した後のフォロー」をご覧ください。

Q5. 結局「一番いい吸入薬」は何ですか?

ありません。「その患者さんが使える吸入薬」が最良の選択です。これが本記事の結論です。

まとめ|「一番いい吸入薬」より「その患者さんが使える吸入薬」

喘息・COPDでは、多くの吸入薬とデバイスが使用できます。

すべての商品名と特徴を暗記するより、まずは次の流れを覚えておくと整理しやすくなります。

必要な薬剤を決める

患者さんが吸えるか確認する

操作できるデバイスを選ぶ

処方後に手技と効果を確認する

私自身も以前は、「どの吸入薬を選べばいいのだろう」と迷うことがありました。

しかし、デバイスの特徴を整理してからは、

「この患者さんなら、このデバイスが使いやすそうだ」

という視点で処方を考えられるようになりました。

吸入薬選びで大切なのは、単に新しい薬を選ぶことではありません。

患者さんが正しく使えて、無理なく継続できる治療を選ぶこと。

この記事が、先生方の明日からの喘息・COPD診療に少しでも役立てば幸いです。


参考文献

  1. Sanchis J, Gich I, Pedersen S; Aerosol Drug Management Improvement Team. Systematic Review of Errors in Inhaler Use: Has Patient Technique Improved Over Time? Chest. 2016;150(2):394-406.
  2. Usmani OS, Lavorini F, Marshall J, et al. Critical inhaler errors in asthma and COPD: a systematic review of impact on health outcomes. Respir Res. 2018;19:10.
  3. Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD). Global Strategy for the Diagnosis, Management, and Prevention of Chronic Obstructive Pulmonary Disease. 2025 Report.
  4. 日本呼吸器学会.COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン.
  5. 各吸入製剤の電子添文・インタビューフォーム.

※本記事は医療従事者向けの一般的な医学情報を目的としています。実際の処方では、最新の診療ガイドライン、各製剤の電子添文、患者個々の病状・併存症・治療歴を確認してください。

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