在宅酸素療法(HOT)は、慢性呼吸不全患者の予後やQOLを改善する重要な治療です。
本記事では、実際の臨床現場で役立つ導入方法を、呼吸器内科医の視点から分かりやすく解説します。
はじめに
医師になると在宅酸素療法を導入する機会に遭遇します。
ですが、医師になってから在宅酸素療法について体系的に学ぶ機会は意外に少なく、
実際の現場では「どう導入すればよいか分からない」という相談が呼吸器内科に寄せられることも少なくありません。
若手医師の中には、経験のある医師から口頭で教わりながら、経験的に導入しているケースも多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、在宅酸素療法を臨床で安全かつ適切に導入するために必要な知識を整理していきます。
若手医師だけでなく、在宅酸素療法について基礎の確認+理解を深めたい医療関係者にも参考になる内容です。
在宅酸素療法とは?
在宅酸素療法は、Home Oxygen Therapy(HOT)の略で、日常生活において酸素投与が必要な患者に対し、自宅で酸素吸入を行う治療法です。
日常臨床で導入することが多い呼吸器疾患例:
- COPD
- 間質性肺炎
▶エビデンス:
重症低酸素血症のCOPD患者において長期酸素療法は生命予後を改善
在宅酸素療法の社会保険適応基準
どのような患者に在宅酸素療法が必要なのでしょうか?
臨床で最も重要なのは以下の①です。
①高度慢性呼吸不全(最重要)
- PaO₂ ≤55 mmHg
- または PaO₂ ≤60 mmHg + 運動時・睡眠時低酸素血症を満たす。医師が必要と認めたもの。
例えばCOPDや間質性肺炎では、まずこの基準を満たすかを確認します。
②その他
- 肺高血圧症
- 慢性心不全(NYHAⅢ以上であると認められ、睡眠時のチェーン・ストークス呼吸がみられ、無呼吸低呼吸指数(1 時間当たりの無呼吸数及び低呼吸数をいう)が20 以上であることが、睡眠ポリグラフィー上確認されている症例。
- チアノーゼ型先天性心疾患
在宅酸素療法の効果
在宅酸素療法を導入することで、以下の効果が期待できます。
- 呼吸が楽になる
- 運動能力の改善(行動範囲の拡大)
- 入院回数の減少
- 生命予後の改善
- 生活の質(QOL)の改善
実際の臨床では、患者が導入をためらうこともありますが、これらの効果を丁寧に説明することで理解・同意につながるケースが多いです。

在宅酸素療法の仕組み
在宅酸素療法に必要なものは、大きく分けると以下の3つになります。
- 酸素濃縮装置(自宅用)
・自宅に設置して使用します。
・空気中の酸素を濃縮し、酸素を供給する装置です。
・電気があれば酸素の残量を気にせずに使用できます。
・高流量の装置になるほど、電気代の負担が大きくなります。
・最近ではバッテリーを内蔵した小型の酸素濃縮装置も出てきています。 - 酸素ボンベ(外出・停電時)
・自宅で生活する際には上記の酸素濃縮装置を設置しておけばいいのですが、外出時や停電時には携帯用の酸素ボンベを使用する必要があります。
・移動する際には、専用のカートやショルダーバッグ、リュックタイプのものもあります。 - カニューラ・マスク
・上記の酸素濃縮装置や酸素ボンベから供給された酸素を、利用者に届ける必要があります。その際に鼻カニューラやマスクなどを装着して酸素を吸入します。
・カニューラには外見が気にならないメガネタイプもあるので、酸素吸入をしているのが恥ずかしい方、外見を気にする方にはメガネタイプをお薦めしてもいいですね。
また、酸素を効率よく使用するために呼吸同調器を併用することもあります。
外出時に上記の酸素ボンベだけでは、酸素がどんどん減ってしまい、短い時間しか酸素を供給できません。
そこで、なるべく長い間、酸素を供給できるようにするために「呼吸同調器」があります。
これは、呼吸にあわせて(息を吸うときに酸素が流れる)酸素が流れることで、
酸素の供給時間を長持ちさせる仕組みです。
在宅酸素を導入する際に、医師は指示書を作成します。
その際に呼吸同調器の有無を選択する必要があるので、導入する患者毎に合わせて判断をください。
在宅酸素療法の導入手順
①安全確認
- 喫煙者は原則導入不可
- 火気管理ができるか確認
酸素関連の火災事故は実際に死亡例も報告されており、厚生労働省からも注意喚起がされています。
②検査と評価
- SpO₂測定
- 動脈血ガス分析(PaO₂, PaCO₂)
- 自覚症状
③酸素流量設定
- 安静時:SpO₂ ≥90%
- 労作時:酸素流量は、6分間歩行試験をリハビリスタッフに依頼し(実際に歩いてもらいSpO2の数値を観察できればいいです)、歩行時にSpO₂が90%程度を維持できる量や、労作時の息切れ症状を参考にして決めていきます。
- 睡眠時:必要に応じ調整
※患者による自己調整は危険なため必ず指導
※酸素流量に応じた必要な酸素濃縮装置の流量タイプを決めます
④多職種連携
- 看護師
- リハビリ
- MSW
- 病院と提携している在宅酸素業者の選定+日程調整
実際の現場では、これらの職種に早めに相談することで導入がスムーズになります。
特に自宅療養に際し、機器の扱い方の習得ができているかを確認していきましょう。
⑤指示書作成
各酸素業者の様式に従い記載します。
⑥呼吸機能障害の申請
身体障がい者手帳が交付されると、さまざまな助成や給付が受けられます。
在宅酸素の導入時には、「呼吸機能障害」を申請できるか確認します。
呼吸機能障がいには1級・3級・4級があり、数字が小さいほど重度です。大抵の場合は3級は取得可能です。
なお、「呼吸機能障害」の書類を記載する際に必要な検査と、患者の経過などの必要事項を記入していきます。
1 胸部X線
2 肺機能検査
3 動脈血液ガス検査
⑦外来フォロー
患者の自宅への在宅酸素機器の設置や緊急時の対応、日頃のメンテナンスなどは在宅酸素業者が対応してくれます。在宅酸素療法を導入できたら、外来でフォローしていきましょう。
- 月1回診察(保険上必須)
- SpO₂確認
⑧在宅酸素療法の他に考えておきたいこと
1)呼吸リハビリ
酸素療法と併せて、呼吸リハビリを行うことで、より効果が期待できます。
2)栄養療法
栄養状態の改善は、呼吸機能の維持に重要です。
栄養科から栄養指導をしてもらうといいです。
栄養指導については、患者ではなく、お世話をする家族の方からの希望や需要が高い印象です。
在宅酸素療法の費用
- 1割:約7,680円
- 2割:約15,360円
- 3割:約23,040円
+電気代が必要です。
患者・家族への指導ポイント
1)機器の使い方を習得できるようにサポートしよう
入院中なら、看護師さん、リハビリスタッフの方にも介入を依頼します。
患者さんが、不安なく自宅でも機器を扱うことができるようにしていきます。
2)同居する家族、お世話をする家族の方も機器の使い方に慣れてもらう
病棟スタッフから直接説明、指導をしてもらう機会を設けることもポイントです。
私の勤務する病院では、病棟看護師が必要に応じて対応をしてくれています。
導入で患者ができるようになること

在宅酸素療法の意義は、単なる数値改善ではなく生活の質の向上にあります。
- 入浴・シャワーが可能になる
- 外出・旅行が可能になる
- 日常生活の自立性向上
「できなかったことができるようになる」という実感は、患者満足度に直結します。
在宅酸素指導管理料
医療機関の外来で再診をした際に算定できます。
- 在宅酸素療法指導管理料 2500点
- 酸素濃縮装置加算 4000点
- 酸素ボンベ加算(携帯用酸素ボンベ) 880点
- 呼吸同調酸素供給器加算 300点
以上の合計で7680点(1点10円)です。
まとめ
この記事では、若手医師が在宅酸素療法を導入するために必要な知識を基礎から解説しました。
この記事が、在宅酸素療法を導入することが初めての先生、在宅酸素療法について勉強したことがない先生、不安を感じている先生方の診療の参考になれば嬉しいです!
在宅酸素療法は、患者の生活そのものを支える治療です。
適切に導入し、QOL向上につなげていきましょう。