【この記事の対象読者】
- 呼吸器内科に興味がある研修医・専攻医
- 内科系の進路に迷っている若手医師
- 呼吸器内科医不足の背景を知りたい医療者
「呼吸器内科医って、なんでこんなに少ないんだろう?」
ふとそう感じた先生も多いのではないでしょうか。
実際、日本における呼吸器専門医の数は、消化器内科や循環器内科と比べて少ない一方で、肺炎・COPD・肺がん・間質性肺疾患など、呼吸器疾患を抱える患者さんは非常に多く存在します。
つまり、呼吸器内科は「医師は少ないのに、社会的ニーズは高い」診療科です。
この記事では、なぜ呼吸器内科医が不足しているのか、その構造的な理由を5つに整理し、現役呼吸器内科医の視点から解説します。
この記事でわかること
- 日本の呼吸器専門医の実数と他科との比較
- 呼吸器内科医が不足している構造的な5つの理由
- 高齢化社会における今後の需要予測
- 呼吸器内科を選ぶ価値・キャリアとしての可能性

日本の呼吸器専門医の現状:数字で見る深刻な不足
まず現状を数字で確認しましょう。
日本呼吸器学会が公表している認定医・専門医数は、2024年時点で約8,000人前後とされています。
一方で、消化器内科専門医は約23,000人以上、循環器専門医は約16,000人以上とされており、
呼吸器専門医は主要内科系専門医の中でも少ない領域です。
| 専門領域 | 専門医数の目安 |
|---|---|
| 消化器内科 | 約23,000人以上 |
| 循環器内科 | 約16,000人以上 |
| 呼吸器内科 | 約8,000人前後 |
| 腎臓内科 | 約7,000人前後 |
全国の医師数が約34万人であることを考えると、呼吸器専門医の割合は全体の数%にとどまります。 しかし、担う疾患群の広さ・重症度・患者数を考えると、呼吸器内科は明らかに需要に対して専門医が不足しやすい診療科です。
呼吸器内科は、専門医数は少ない一方で、肺炎・COPD・肺がん・間質性肺疾患など、社会的ニーズの高い疾患を幅広く担当します。

呼吸器内科医が不足している5つの理由
- 研修医からの進路選択率が低い
- 専門医取得の難しさ・時間的コスト
- 担当疾患の幅広さと労働集約性
- 高齢化・患者増加に人材育成が追いついていない
- 感染症との棲み分け問題とCOVID-19の影響
理由①:研修医からの進路選択率が低い
初期研修・後期研修の段階で呼吸器内科を選ぶ研修医が少ないことは、呼吸器内科医不足の大きな要因です。
理由としてよく挙げられるのが、 「手技が少ない」「地味なイメージ」「稼げないイメージ」 といった印象です。
しかし実際には、呼吸器内科にも気管支鏡、胸腔ドレナージ、超音波ガイド下生検などの手技があります。
また、外来・入院・救急のいずれでも需要が高く、臨床医として幅広い力が身につく診療科です。
一方で、消化器内科の内視鏡、循環器内科のカテーテル治療のような「わかりやすい華やかさ」が伝わりにくく、若手医師に魅力が届きにくい構造があります。
理由②:専門医取得の難しさ・時間的コスト
呼吸器専門医の取得には、日本呼吸器学会専門医の基準を満たす必要があります。
2018年の新専門医制度以降、専門研修の仕組みは整備され、症例数の確保や指導医のいる施設での研修がより重要になっています。
ただ、特に地方病院では、呼吸器内科の指導体制が十分に整っていないケースもあります。
そのため、若手医師から見ると、 「どこで研修すれば専門医を取れるのか」 「将来のキャリアパスが見えにくい」 という不安につながりやすいのが現状です。
理由③:担当疾患の幅広さと労働集約性
呼吸器内科は、扱う疾患の幅が非常に広い診療科です。
- 感染症:肺炎・結核・非結核性抗酸菌症・COVID-19
- 閉塞性肺疾患:COPD・気管支喘息
- 間質性肺疾患:IPF・過敏性肺炎・薬剤性肺炎など
- 悪性腫瘍:原発性肺がん・転移性肺腫瘍
- 胸膜疾患・縦隔疾患・睡眠時無呼吸症候群
これだけの疾患群を1つの科でカバーするため、必要な知識量は多くなります。
慢性疾患管理から急性期対応、がん診療、終末期医療まで幅広い対応が求められます。
特に肺炎入院患者の多さは、病棟業務や当直業務への負担にも直結します。
病棟が重い時期には、バーンアウトのリスクも高くなりやすい診療科です。
理由④:高齢化・患者増加に人材育成が追いついていない
日本は超高齢社会に入り、COPD・肺炎・肺がん・間質性肺疾患などの患者数は今後も高い水準で推移すると考えられます。
呼吸器疾患は高齢者に多く、入院・再入院・在宅酸素療法・終末期医療とも密接に関わります。
一方で、専門医の育成には時間がかかります。 初期研修2年、内科専門研修、サブスペシャルティ研修を経て一人で診療ができるようになるには、最低でも数年単位の時間が必要です。
つまり
患者数の増加スピードに対して、専門医の育成スピードが追いつきにくい構造があります。
理由⑤:感染症との棲み分け問題とCOVID-19の影響
COVID-19パンデミックは、私たち呼吸器内科医に大きな負荷をもたらしました。
感染症科、集中治療科、救急科と連携しながら、重症呼吸不全患者の管理を担ってきた呼吸器内科医は少なくありません。
その結果、通常診療に加えて感染症対応、呼吸管理、後遺症外来などが重なり、医師1人あたりの負担が増えました。
また、Long COVIDの管理でも呼吸器症状を訴える患者さんは多く、呼吸器内科への需要はパンデミック後も続いています。
今後の展望:呼吸器内科医不足はさらに進むのか?
現状の医師育成ペースを考えると、向こう10〜15年で呼吸器内科医の不足はさらに深刻化する可能性があります。
- 高齢化の加速:COPD・肺炎・肺がん患者の増加
- 現役専門医の高齢化:一定数が今後引退時期を迎える
- 地方偏在:地方中小病院では呼吸器専門医ゼロの施設もある
一方で、AIを活用した診断支援、遠隔医療、オンライン診療の普及により、部分的に人材不足を補える可能性もあります。
胸部X線やCTのAI読影支援、肺がんスクリーニング、間質性肺疾患のパターン認識などは、今後の呼吸器診療を支える重要な技術になるかもしれません。
ただし、AIは呼吸器内科医を完全に置き換えることはできないと感じています。
呼吸困難の評価、患者背景の理解、治療方針の共有、終末期の意思決定支援などは、人間としての視点や、医師の総合力が問われる領域です。

それでも呼吸器内科を選ぶ価値はある
呼吸器内科医が不足しているということは、裏を返せば、 需要が高く、キャリアとしての価値が高い ということでもあります。
- 就職先の豊富さ:全国どこでもニーズが高い
- 診療の幅広さ:内科全般の力を活かせる
- 研究の可能性:肺がん・ILD・COPDなど学術領域も広い
- 働き方の柔軟性:急性期・慢性期・在宅・緩和ケアへ展開できる
私自身、呼吸器内科を選んで、大変ではありますが、やりがいは多く、あまり後悔したことはありません。
担当疾患の多様さ、チーム医療のやりがい、そして病状が進行していても、患者さんの 「息がらくになった」 という満足感。
それが日々の診療の原動力になっています。
まとめ:呼吸器内科を選ぶ意味はある
呼吸器内科医が不足している理由は、「育成コストの高さ × 需要の増加 × イメージとのミスマッチ」 です。
- 手技が少ないという誤解
- 専門医取得までのハードル
- 担当疾患の幅広さと労働集約性
- 高齢化による患者増加
- COVID-19による業務負荷とバーンアウト
しかし、だからこそ今この分野を選ぶことには大きな意義があります。
不足している専門家になれるということは、社会から求められる医師になれるということです。
キャリアの選択肢という視点でも、呼吸器内科は非常に魅力的な選択肢だと思います。
若手医師の先生方にとって、少しでもキャリア選択の参考になれば幸いです。
