はじめに
私は、現役の呼吸器専門医であり、2人の小学生を育てる父親です。
これまで急性期総合病院に勤務しながら、呼吸器内科医としてのキャリアアップを優先してきました。
しかし、子どもの成長とともに、家族との時間の大切さをより強く感じるようになり、真剣に転職を考えるようになりました。
今回は、「病院を変えよう」と決意してから、実際に行動を起こそうとしたときに直面したリアルな”不安や悩み”、そして医師転職ならではの特有の壁について、等身大の体験談をもとにまとめました。
同じように育児をしながら、家庭と仕事の両立に悩み、転職を考えている先生方にとって、少しでもヒントになれば嬉しいです。
医師が転職を決意したときに立ちはだかる「8つのリアルな壁」
① 医師は転職する“タイミング”が難しい
医師のキャリアは一般職とは違い、「専門医取得」や「医局人事」と密接に結びついています。
例えば下記のようなことが問題になります。
- 専門医を取得するタイミング
- 医師として一人前に診療ができる段階なのか?
- 大学医局の人事との関係
- 子育て、家庭の状況
- 今後のキャリアをどう描いていくか?
特に大学医局に所属している先生の場合は、医局との相談や許可、円満に辞められるかどうかといった問題がつきまといます。
そして、子育てのタイミングも重なれば、さらに判断は複雑になります。
このように、医師の転職は多くの要素が複雑に絡み合ってきます。
② 働く地域の選定が難しい
病院を辞める際に必ず考えるのが「次はどの地域で働くか?」です。
子育て中の医師にとって、単なる勤務地の選定ではなく、「家族の生活の拠点」をどうするかという大きなテーマの選択になります。
- 辞める病院の近くでは働きづらい
- 今後の子どもの教育環境をどこにするか?
- 両親の近くに住むか?
- 候補地域の医療状況がどうなっているか
このようなことを考えて決断を下していく必要があります。
医師本人だけでなく、家族全体のライフプランに直結する問題であり、精神的にも大きな負担になります。
忙しい臨床業務の中では、ゆっくり考える余裕はなく、結構きついです。
③ 今までのキャリアを変えることへの不安や葛藤
急性期の呼吸器内科に身を置き、やりがいある診療に全力を注いできました。
呼吸不全や肺がんの診療は専門性が高く、大きなやりがいがありました。
しかし、家庭と両立するために働き方を見直そうとすると、これらの分野を離れ、在宅医療や慢性期、総合診療といった分野へ軸を移すことが選択肢になってきますが、次のような葛藤が生まれました。
- これまでの専門性を手放してしまっていいのか?
- もう急性期医療には戻れないだろう。医師として自身が望むことなのか?
- 医師としての誇りや存在意義はどうなるのか?
“いままでの医師として積み上げてきたキャリア”と“家庭人としての責任”の間で揺れ動く時期でした。
④ 次の職場でもうまくやれるか?という人間関係の不安
転職先で新たな人間関係を築くのは、大きなストレスです。
私自身、職場で同僚との関係に悩んだ経験があり、「また同じことが起きたらどうしよう」と不安がぬぐえませんでした。
- 今度の職場ではうまくやっていけるのか?
- 院長や上司の考え方・方針に馴染めるか?
- 同僚医師、スタッフとの連携はうまくいくか?
こうした人間関係の悩みは、働いてみないと分からないからこそ、不安の種になります。
⑤ 転職先の“実情”が見えにくい
医師の求人には、実際の勤務環境とのギャップがあることも少なくありません。
- なぜその病院は求人を出しているのか?
- 離職率が高いのでは?
- 「当直なし」とあるが実際は違うのでは?
- 求人票にある条件(当直なし、残業少なめ)は本当なのか?
総合病院で勤務していると、どの病院も経営や人材確保に四苦八苦している実情は理解しています。
つまり、どの病院も何かしらの課題や問題を抱えており、それを解決するために求人を出しているのが通常です。
そのため、「なぜその病院が人材を募集しているのか?」という背景を読み解く視点が欠かせませんが、それを外部から見極めるのは簡単ではありません。
医療業界は、昔よりはマシですが、ブラック/グレーな働き方をせざるをえない病院が多いのは分かっているので、転職活動の際には、より不安になってしまいます。
⑥ 条件・待遇交渉がしづらい
転職では、勤務日数、当直回数、年収などを希望に応じて交渉する必要があります。
しかし、医師自身が直接交渉するのは難しく、心理的ハードルも高いものです。
私は、転職エージェントを活用し、第三者から丁寧に伝えてもらうことで、精神的な負担を軽減しました。
第三者を通じて交渉することは精神的な負担を軽減する上でも有効だと感じました。
⑦ 医師転職は「人脈・紹介」「医局との関係」が絡んでくる
医師の転職は、医局や知人紹介などをきっかけにすることも多いです。また、いわゆる「非公開求人」も少なくありません。他にも、大学医局人事だと、就職するのは難しい病院も多いです。大学医局人事を優先する病院では就職できないため、医局職が強い地域での選択肢は少ないこともあります。希望する地域で、就職できないケースもあります。
⑧ 医師転職は「逃げ」なのか?という葛藤
「子育てが大変だから転職する」
「今の職場が辛いから転職する」
…こうした理由は、決して悪いことではありません。
でも、どこかで「逃げではないか」「自分だけが楽をしようとしているのでは」と感じてしまう葛藤もありました。
今ならはっきりとお伝えしたいのは、転職は“逃げ”ではなく、“前向きな選択”です。
自分と家族の人生を大切にするための、よりよく生きるための勇気ある一歩だと考えています。
まとめ|悩んでいい。でも、一歩踏み出す価値がある!
子育てをしながら医師として働いていると、ふと「このままでいいのか?」と立ち止まる瞬間があります。
悩むのは当然です。不安になるのも当然です。
私自身、たくさん悩みましたし、不安もありました。
日々の忙しい仕事の中で、転職を考えていくのは、想像以上につらいです。
でも、悩みながらでも行動することで、少しずつ未来が見えてきます。
家族を大切にすること、自分らしく働くことは、医師としての成長にも必ずつながると信じています!
- まずは情報を集めてみる
- 誰かに相談してみる
- 少しだけ行動してみる
小さくても行動を始めてみることで、少しずつ状況は変わり始めます。
見える景色が少し変わってくる可能性があります。
この記事でまとめた「私自身の病院を変わる際に悩み苦労をした体験談」が、いま同じように悩んでいる先生の背中を、そっと押すことができたら幸いです。