在宅酸素療法を導入する医師が知っておきたい知識と導入方法を解説!

【はじめに】

医師になると在宅酸素療法を導入する機会に遭遇します。

ですが、医師になってから在宅酸素療法について勉強する機会って意外にありません。このため担当の患者さんに、在宅酸素療法を導入しようと思っても方法が分からないという先生はかなり多く、呼吸器内科に相談、依頼がくることがよくあるのが現状です。

若い先生の中には、在宅酸素を導入したことのある先生から口頭で教えてもらって導入するケースも多いのではないかと思います。

また、医師が在宅酸素療法を導入する際に、まとまった情報が少ないのが現状です。

そこでこの記事では、若手医師が在宅酸素療法を導入するために必要な知識を基礎から解説します!

この記事を読めば、在宅酸素療法を臨床で導入することができるようになります。

ここでは私の呼吸器内科医の経験も活かして記事にするので、若手医師以外の先生、医療関係者、在宅酸素療法について理解を深めたい方々にも必ず参考になる記事です。ぜひ一読ください!

在宅酸素療法とは?

在宅酸素療法はHOT: Home Oxygen Therapyの頭文字をとって、「ホット」と呼ばれます。その名の通り、日常生活で酸素が必要な方に、酸素を吸入できるようにするための治療法です。

在宅酸素療法の社会保険の適応基準は?

どのような患者で在宅酸素が必要なのでしょうか?

在宅酸素療法は健康保険が適応されており、次の条件を満たす場合が挙げられます。

全て覚えてもいいですが、実際の臨床で使うのは下記1)の赤線部分です!

(その他は、循環器内科医の先生が知っていればいいでしょう)

例えば、COPD、間質性肺炎の方は1)に該当するかどうかを確認すればいいですよね!

1)高度慢性呼吸不全例

動脈血酸素分圧55mmHg 以下の者及び動脈血酸素分圧60mmHg 以下で睡眠時又は運動負荷時に著しい低酸素血症を来す者であって、医師が在宅酸素療法を必要であると認めたもの

2)肺高血圧症

3)慢性心不全

医師の診断によりNYHA3 度以上であると認められ、睡眠時のチェーン・ストークス呼吸がみられ、無呼吸低呼吸指数(1 時間当たりの無呼吸数及び低呼吸数をいう)が20 以上であることが、睡眠ポリグラフィー上確認されている症例。

4)チアノーゼ型先天性心疾患

在宅酸素療法でどのような効果があるの?

(日本呼吸器障害者情報センターHPより引用)

在宅酸素療法を導入することで得られるメリットについて知っておきましょう。

在宅酸素が必要な状態の方に提案をしても嫌がる方がいます。なぜ嫌がるのか理由を聞くとともに、病状説明の際に以下を話すことで、説得力が増し了承を得られることがあります。

  1. 呼吸が楽になる
  2. 運動能力の改善:動ける範囲が増えて、日常生活での行動範囲が広がることが期待できる。
  3. 入院回数の減少:低酸素に伴う合併症や、体調の悪化を防ぐことで入院する機会が減る。
  4. 生命予後の改善:長期的に酸素療法を行うことで、生存率が向上する可能性がある。
  5. 生活の質の改善:症状の軽減、動ける範囲が増えることで、生活の質の改善が期待できる。

在宅酸素療法の仕組み

在宅酸素療法に必要なものは、大きく分けると以下の3つになります。

①酸素濃縮装置

(日本呼吸器障害者情報センターHPより引用)

・自宅に設置して使用します。

・空気中の酸素を濃縮し、酸素を供給する装置です。

・電気があれば酸素の残量を気にせずに使用できます。

・高流量の装置になるほど、電気代の負担が大きくなります。

・最近ではバッテリーを内蔵した小型の酸素濃縮装置も出てきています。

②酸素ボンベ

・自宅で生活する際には上記の①を設置しておけばいいのですが、外出時や停電時には携帯用の酸素ボンベを使用する必要があります。

・移動する際には、専用のカートやショルダーバッグ、リュックタイプのものもあります。

③カニューラやマスク

・上記の酸素濃縮装置や酸素ボンベから供給された酸素を、利用者に届ける必要があります。その際に鼻カニューラやマスクなどを装着して酸素を吸入します。

・カニューラには外見が気にならないメガネタイプもあるので、酸素吸入をしているのが恥ずかしい方、外見を気にする方にはメガネタイプをお薦めしてもいいですね。

④補足:呼吸同調器について

外出時に上記の②の酸素ボンベだけでは、酸素がどんどん減ってしまい、短い時間しか酸素を供給できません。そこで、なるべく長い間、酸素を供給できるようにするために「呼吸同調器」があります。これは、呼吸にあわせて(息を吸うときに酸素が流れる)酸素が流れることで、酸素の供給時間を長持ちさせる仕組みです。

在宅酸素を導入する際に、医師は指示書を作成します。その際に呼吸同調器の有無を選択する必要があるので、導入する患者毎に合わせて判断をください。

在宅酸素療法の導入時に医師がするべきこと

医師が在宅酸素療法が必要と判断した場合に、「実際にどのように在宅酸素療法を導入するのか」を順番に列挙していきます。

1)必ず確認しよう!在宅酸素療法を安全に導入することができるか?

酸素を扱うので、火器を扱う方には処方してはいけません。

実際に、喫煙等が原因と考えられる火災により死亡するなどの事故が繰り返し発生しているため、厚生労働省からも改めて注意喚起がなされています。そのため在宅酸素を導入する前に、必ず喫煙しないこと、火気の扱いを守ることができる患者かどうかを確認する必要があります!

(在宅酸素使用中の火気の取り扱いについては厚生労働省のホームページからも注意喚起がなされています!)

特に喫煙者はダメです!

安全に使用する上で注意点を守ることができない方に処方するのは要注意です!

2)検査と問診

上記の1)を確認できたら、実際に検査と症状を確認します。外来でも簡単に確認することができます。

・パルスオキシメーターでSpO₂を測定

・動脈血液ガス分析でPaO₂の測定(pHやpCO₂も必ずチェックします)

・自覚症状の確認

上述した在宅酸素療法の社会保険適応基準を満たすかどうかを確認しましょう!

この時点で、在宅酸素療法の導入が決定したら下記に進みます。

3)酸素流量の設定

安静時、労作時、睡眠時の酸素流量を決める必要があります。

・安静時や睡眠時の酸素流量はSpO₂が90%以上となる流量で設定しましょう。

・労作時の酸素流量は、6分間歩行試験をリハビリスタッフに依頼し(実際に歩いてもらいSpO2の数値を観察できればいいです)、歩行時にSpO₂が90%程度を維持できる量や、労作時の息切れ症状を参考にして決めていきます。

酸素流量を決めたら、下記のことを決めていきます。

  1. 酸素流量に応じた必要な酸素濃縮装置の流量タイプを決める。
  2. 自宅療養に際し、酸素ボンベが必要かどうかを検討する。
  3. どこの在宅酸素業者に依頼するのかも決めていく(病院と提携している業者の中から選ぶ)

酸素流量の調整については、患者や家族が勝手に流量を変更するケースがみられますが危険です。予め、医師の指示や許可なしに勝手に酸素流量を変更しないように伝えておくことが重要です。

なお、病院によって異なる部分ですが、在宅酸素の導入に際しては、病棟看護師、担当している看護師や、メディカルソーシャルワーカーにも連絡し、介入を依頼し、調整してもらうとスムーズに進みます!

4)在宅酸素療法の指示書を記載する

以上のことができたら、在宅酸素業者毎に「指示書」があるので、その用紙の各項目を記載していきましょう。施設毎に異なりますが、酸素業者が持参する場合、病棟/病院に記入用紙が置いてある場合もあります。困ったら病院事務、看護師に聞いてみましょう。

5)月1回は外来で診察をする

患者の自宅への在宅酸素機器の設置や緊急時の対応、日頃のメンテナンスなどは在宅酸素業者が対応してくれます。在宅酸素療法を導入できたら、外来でフォローしていきましょう。

健康保険の適応上、毎月 1 回は必ず受診する必要があります。

その際は、動脈血酸素分圧測定(経皮的動脈血酸素飽和度測定器による酸素飽和度の使用可)をしていきます。毎回血液ガスを採取するのは大変ですので、後者で代用すればいいです。

診察後には、SpO₂を含めたカルテ記載と、必ず在宅酸素指導管理料を請求しましょう(最後に掲載します)。

6)呼吸機能障害の申請を行う

身体障がい者手帳が交付されると、さまざまな助成や給付が受けられます。

在宅酸素の導入時には、「呼吸機能障害」を申請できるか確認します。呼吸機能障がいには1級・3級・4級があり、数字が小さいほど重度です。大抵の場合は3級は取得可能です。

なお、「呼吸機能障害」の書類を記載する際に必要な検査は

1 胸部X線

2 肺機能検査

3 動脈血液ガス検査

です。検査所見を参考に、患者の経過などの必要事項を記入していきます。

7)患者への指導のポイント

機器の使い方を習得できるようにサポートしよう

入院中なら、看護師さん、リハビリスタッフの方にも介入を依頼します。患者さんが、不安なく自宅でも機器を扱うことができるようにしていきます。

同居する家族、お世話をする家族の方も機器の使い方に慣れてもらう

病棟スタッフから直接説明、指導をしてもらう機会を設けることもポイントです。私の勤務する病院では、病棟看護師が必要に応じて対応をしてくれています。

在宅酸素療法で実際にかかる費用は?

月額で、1割負担→7,680円、2割負担→15,360円、3割負担→23,040円です。

この他に電気代などはかかりますが、導入する際に費用負担の目安として知っておくと便利です。

在宅酸素療法と合わせて考えておきたいこと

1)呼吸リハビリ

酸素療法と併せて、呼吸リハビリを行うことで、より効果が期待できます。入院中に導入をする際には、リハビリスタッフにも介入を依頼してみるといいです。

2)栄養療法

栄養状態の改善は、呼吸機能の維持に重要です。栄養科から栄養指導をしてもらうといいです。栄養指導については、患者ではなく、お世話をする家族の方からの希望や需要が高い印象です。

在宅酸素を導入するとできるようになること(具体例)

例えば、COPDや間質性肺炎などの肺疾患が進行してくると、徐々に身の回りのことが出来なくなり、動けなくなってきます。普通の人が当然のようにできることが出来なくなって苦痛を感じてしまいます。在宅酸素を導入することで、日常生活で出来なくなってしまったことが出来るようになることで、満足感につながり、生活の質をアップさせることができます。例えば以下のような例が挙げられます。

1)入浴、シャワーが可能になる

酸素を装着すれば可能です!意外と医師が想像できない部分でもあります。自宅に設置した酸素濃縮装置から長いチューブをつなげて、酸素をつけながら入浴、シャワーができて、身体をスッキリさせることが可能です。患者さんからの満足感が高いメリットの1つです。

2)遠出、旅行で宿泊することもできる

病状が進行してくると、残された時間を意識して過ごすようになります。

「最期になる前に行きたい場所、会いたい友人・知人がいるので遠方に行きたい」と希望される方がいらっしゃいます。このような場合でも在宅酸素があれば行動範囲を拡げることができるようになります。例えば宿泊先に酸素濃縮装置や酸素ボンベを配送することで対応可能なケースもあります。在宅酸素業者とも相談してみてもいいですね。

在宅酸素指導管理料

医療機関の外来で再診をした際に算定できます。参考にください。

  1. 在宅酸素療法指導管理料 2500点
  2. 酸素濃縮装置加算 4000点
  3. 酸素ボンベ加算(携帯用酸素ボンベ) 880点
  4. 呼吸同調酸素供給器加算 300点

以上の合計で7680点(1点10円)です。

まとめ

この記事では、若手医師が在宅酸素療法を導入するために必要な知識を基礎から解説しました!記事にすると、するべきことが多いように感じるかと思いますが、実際は、医師がすることはそんなに多くありません。この記事が、在宅酸素療法を導入することが初めての先生、在宅酸素療法について勉強したことがない先生、不慣れで不安を感じている先生方の診療の参考になれば嬉しいです!!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA



reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。