呼吸器専門医の取得難易度が高い理由|他科との比較と実体験から解説

「呼吸器専門医って、他の内科系サブスペシャルティ専門医より取るのが大変だと聞きます」

研修先を選ぶ専攻医の先生や、サブスペシャルティ領域を検討中の先生から、このように聞かれることがあります。

結論から言えば、呼吸器専門医の取得難易度は内科系サブスペシャルティの中でも比較的高い部類に入ると感じています。
その大きな理由の1つが、「取得要件そのもののハードルの高さ」です。

私自身、地方の基幹病院で子育てをしながら呼吸器専門研修を行い、苦労しながら専門医を取得しました。
この記事では、制度上の要件と実際の研修経験を踏まえて、呼吸器専門医取得の大変さについて解説します。

この記事でわかること:

  • 呼吸器専門医の取得要件
  • 他の内科系専門医と比較したときの特徴
  • 地方病院で呼吸器研修を行う大変さ
  • 子育て中の医師が感じた「時間の壁」
  • 呼吸器専門医を取得する価値

呼吸器専門医の取得要件は?他科との比較

まず「何が難しいのか」を理解するために、新専門医制度(J-OSLER-呼吸器)における主な取得要件を整理します。

主な要件は以下の通りです。

  • 内科専門医の取得(前提条件)
  • 日本呼吸器学会認定の基幹施設・連携施設での3年間の専門研修
  • 病歴要約25本の提出・外部審査通過
  • 呼吸器関連学会での学会発表3回
  • 呼吸器病学関係の論文3本(原則として、peer reviewを受けた原著が望ましい・筆頭著者1本含むことが望ましい)
  • 臨床呼吸機能講習会の受講(3日間)
  • 専門医試験の合格

出典:日本呼吸器学会・専門医認定申請

論文・学会発表の要件を他科と比較する

ここが他科との最大の違いです。主要な内科系専門医と並べてみます。

専門医論文要件学会発表要件
呼吸器専門医論文3本(査読付き原著が望ましい)発表3回(独立した要件)
消化器病専門医学会発表または論文の合算3件でよい論文と合算可
循環器内科専門医(新制度)論文の明示要件なし(J-OSLER・病歴要約10例中心)明示要件なし

出典:日本呼吸器学会日本消化器病学会専門医制度規則日本循環器学会

消化器病専門医は「学会発表と論文を合算して3件」でよく、
循環器(新制度)はJ-OSLERの修了と病歴要約が中心で論文の明示的な数値要件はありません。
一方、呼吸器専門医は「論文3本」と「学会発表3回」が独立した要件として別々に課されており取得難易度が高くなっています。もちろん、どの専門医も決して簡単に取得できるものではありません。しかし、呼吸器専門医は学術活動の負担が大きく、ハードルが高いというのが率直な印象です。

地方病院での呼吸器研修が特に大変な理由

私は地方の基幹病院で呼吸器専門研修を行いました。

基幹病院ではあったものの、大学病院や都市部の大規模病院とは環境が大きく異なります。
ここからは、実際に地方病院で研修した経験をもとに、特に大変だった点をお伝えします。

① 症例は「待っていては来ない」——自分から集めにいく必要がある

大学病院や都市部の大規模病院では、呼吸器内科の症例数が多く、専門研修に必要な症例を経験しやすい環境が整っていることがあります。

一方で、地方病院では、症例の絶対数が限られることがあります。

病歴要約25本を3年間で揃えるには、意識的に症例を探し、積極的に担当をしていく姿勢が必要です。
臨床そのものに加えて、専門医取得に必要な症例を意識し続けることは、慣れるまで精神的にも負担がありました。

② 学会発表をする文化がない——自分で要件を満たす必要があった

私が研修した施設では、学会発表を積極的に行う医師がいませんでした。
また上司から「発表してみたら」と声をかけられることはほとんどなく、学会発表の要件は、自分で意識してクリアする必要がありました

発表演題の立案、抄録作成、スライド準備、当日の発表——これらをすべて自分で進める必要がありました。

学会発表の文化がある施設であれば、先輩医師からテーマ設定や抄録作成のアドバイスを受けられるかもしれません。しかし、そのような環境がない場合は、症例をどう発表演題にまとめるかを自分で考えるところから始めなければなりません。

これは、想像以上に大きな負担でした。

③ 論文——これが最大の山だった

論文作成が一番高い課題で、つらく、大変でした

研修施設には論文を書く先生がいませんでした。
論文の書き方を教えてもらえる環境ではなく、上司から「論文を書きなさい」と言われたこともありません。
つまり、専門医取得に必要な論文は、完全に自分で計画し取り組む必要がありました。

日常診療を行いながら、症例を選び、文献を調べ、投稿先を考え、原稿を書き、査読対応を行う。

大学病院や研究活動が盛んな施設であれば、研究グループに所属したり、先輩医師や同僚と共同で学会発表や論文作成に取り組んだりする機会があります。その結果、共著の機会が得られることもあります。

しかし、地方の市中病院では、必ずしもそのような仕組みがあるとは限りません。
「論文を書く文化がない施設で、論文3本を揃える」
これが呼吸器専門医取得の最大のハードルでした

④ 子育てと研修の両立——仕事以外の時間がなかった

研修期間中、私は子育て中でした。
両親の手を借りることも難しく、仕事が終わればそのまま家庭で育児が始まる毎日でした。

病歴要約、学会発表の準備、論文執筆は、基本的に通常業務以外の時間に行う必要があります。しかし、その時間の多くは子育てで消えていきます。
子どもが寝た後の深夜に病歴要約、学会作業、論文を書いたりする生活が続きました。


地方×子育て×論文文化のない施設、という三重のハードルが重なったとき、呼吸器専門医の取得難易度は跳ね上がると感じています。

研修施設の少なさという構造的な問題

難易度を押し上げているもう一つの要因は、他の内科系診療科と比較した際に、選ぶことができる研修施設の絶対数の少なさだと感じています。

呼吸器専門研修の基幹施設になるには、呼吸器指導医の常勤数や呼吸器系病床数など、一定の条件を満たす必要があります。呼吸器領域は、消化器や循環器と比較すると専門医数が少ないため、研修できる施設も限られやすいのが実情です。

実際、専門医数を比較しても、呼吸器専門医は他の主要な内科系サブスペシャルティと比べて少ない傾向があります。

専門医資格取得者数(2023年度)
消化器病専門医約23,706名
循環器専門医約16,858名
呼吸器専門医約7,594名

出典:日本専門医制度概報 2023年度版(日本専門医機構)

このように、選べる施設数が限れることも、呼吸器専門医を取得しにくくしている要因の1つだと考えています。

呼吸器専門医を取ることは簡単ではない。だからこそ価値がある

大変さばかりお伝えしましたが、だからこそ専門医取得後の価値は高いと実感しています。

私自身、呼吸器専門医を取得した後に転職活動を行いましたが、採用側の反応は明らかに違いました。

呼吸器疾患をもつ患者さんは非常に多く、肺炎、COPD、喘息、間質性肺炎、睡眠時無呼吸症候群、肺がん、在宅酸素療法など、呼吸器内科医が求められる場面は数多くあります。

その一方で、呼吸器専門医は決して多くありません。

そのため、病院側にとって呼吸器専門医の採用は、呼吸器診療体制の強化につながります。
実際に「呼吸器専門医を持っているなら優遇します」「専門医を持っているので年収をアップします」と言っていただけた場面が複数ありました。

まとめ

呼吸器専門医の取得が難しい理由を整理します。

  • 論文3本+学会発表3回が独立した要件として課されており、他科より条件が厳しい
  • 論文・学会発表の文化がない施設だと、更に敷居が上がる
  • 病歴要約25本を揃えるのに能動的な姿勢が求められる
  • 指導医・研修施設の少なさという構造的な問題もある
  • それでも取得後の市場価値・希少性は高く、キャリアの武器になる


早い段階から論文・学会発表の計画を意識することが、最大のリスクヘッジになります

試験対策の具体的な勉強法については、こちらの記事で詳しくまとめています。
【2026年度呼吸器専門医試験の対策】最短で合格するための完全ガイド

同じような環境で頑張っている先生のご健闘を、心から応援しています。

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